Financial Times

 

内政で手いっぱいのG7 トランプ氏 不安定化に拍車も 

ギデオン・ラックマン 

 

主要7カ国(G7)は「自由世界の運営委員会」だ――。米バイデン政権のサリバン大統領補佐官(国家安全保障担当)はこう表現する。

 

イラスト James Ferguson/Financial Times 

だとすれば自由世界は問題を抱えている。G7各国のほとんどの政府は今、内政問題への対応に追われ、自由世界はおろか自国の運営すらままならない。

 

G7で支持を維持しているのはイタリアのメローニ首相だけ 

フランスやドイツ、カナダ、日本、韓国(韓国はG7の正式メンバーではないが、定期的にG7首脳会議に出席している)の政治状況をみてほしい。

フランスでは4日、来年度予算案を巡りバルニエ内閣の不信任案が成立した。マクロン大統領は13日に仏南西部ポー市の市長で中道政党議長のフランソワ・バイル氏を後任の首相に指名したが彼も同様の問題に直面するだろう。マクロン氏は2027年の任期満了前に辞任するだろうとの臆測も広がっている。

ドイツでは16日、ショルツ首相率いる「信号機連立政権」(連立を組む3党のイメージカラーに由来する)が瓦解したのを受け、25年2月に解散総選挙が実施される。

日本では10月、与党の自民党は09年の衆院選以来となる過半数割れとなったうえ来年、新たな選挙の可能性もある。

カナダでは10年近くにおよぶトルドー政権が惨めな結末を迎えつつある。彼が率いる与党自由党は世論調査の支持率が大きく落ち込んでおり、同氏は強い退陣圧力にさらされている。

民主主義の衰退を象徴するのが韓国だ。尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領は政治的に追い詰められた末の策として3日夜に「非常戒厳」を宣言したが、韓国国会は4日未明、その解除要求決議案を可決。尹氏はすぐに非常戒厳宣言の解除を余儀なくされ、14日には彼に対する弾劾訴追案が可決された。

米国を除くG7各国の中で、安定した政権を維持しているのは、英国とイタリアだけかもしれない。スターマー英首相率いる労働党は、今夏の総選挙で圧勝したが、以降、世論調査での彼の支持率は急降下しており、5カ月がたつ今、過去40年間の英首相たちの中では最も低い。

イタリアのメローニ首相だけが、有権者にも市場にも好意的にみられていると胸を張って主張できそうだ。

 

共通するポピュリスト政党台頭と財政逼迫 

では、何がG7各国を苦しめているのか――。いつものことで、国内政治が大変なのだ。

日本では政治資金問題で自民党は支持率が低下した。マクロン氏とトルドー氏は在任期間が長く、以前の輝きを失った。

しかし、こうした各国特有の状況に加え、G7のほぼすべての民主主義国が安定した政権維持に苦労しているのには2つの大きな共通要因があるようだ。

第1は、政治的中道の衰退と数々のポピュリスト政党の台頭だ。第2は、経済の低成長や高齢化社会、新型コロナウイルス禍、08年の金融危機、防衛費増額などによって生じた財政の逼迫だ。ポピュリズムと財政問題は互いに影響し合い、国の運営をますます難しくしている。

フランスでは財政赤字が今や国内総生産(GDP)比6%だ。これに対処すべく歳出削減と増税を試みた結果、バルニエ内閣は総辞職に追い込まれた。フランス議会では極左も極右もかなりの議席を握っており、政治的妥協を引き出すのが至難の業となっている。

英国ではスターマー氏率いる労働党が議席の過半数を獲得したことで、フランスが出来なかったこと、すなわち財政均衡を目指した増税が可能となった。しかし、その増税が労働党の支持率低下の一因となった。

困難な時代に財源を確保する難しさは、カナダと日本の政治的危機の大きな要因にもなっている。

 

独AfDや英「リフォームUK」に肩入れするマスク氏 

トランプ氏が再び米大統領に就任することは、G7全体に漂う政治的に不安定な雰囲気に拍車をかけそうだ。トランプ氏と彼のお気に入りの実業家イーロン・マスク氏は、民主主義の同盟各国政府を助けようとするより、これら政府に苦痛を上乗せするのを楽しんでいるようだ。

トランプ氏が掲げるMAGA(「米国を再び偉大に」の頭文字)を支持する共和党議員らは、特にトルドー氏やショルツ氏、スターマー氏といった中道左派の指導者をからかうのを好んでいるかにみえる。

トランプ氏は、カナダを米国の51番目の州として、トルドー氏をその「知事」とあえて呼ぶことで彼に屈辱を与えてきた。

マスク氏は20日、X(旧ツイッター)に「ドイツを救えるのは(極右政党の)ドイツのための選択肢(AfD)だけだ」と投稿し、欧州全土で大きなニュースとなった。16日には英右派のポピュリスト政党「リフォームUK」のファラージ党首とも会談、これを大々的に発表した。そしてファラージ氏はマスク氏からの資金援助を期待していると明言した。

トランプ氏を支持する共和党議員たちはもはや、欧州の伝統的な保守政党を仲間とはみなしていない。

英保守党のベーデノック党首も、ドイツの中道右派であるキリスト教民主同盟(CDU)のメルツ党首も、トランプ氏とマスク氏が欧州の急進的で国家主義的な右派各党に接近する様子をただただ落胆しながら傍観することしか出来ない。

ドイツで企業寄りとされるリベラル系の自由民主党(FDP)は苦境にある。それでも同党首のクリスチャン・リントナー氏は20日、X上で「イーロン」とマスク氏に向け必死に呼びかけて、AfDが「極右の過激派の政党だ」と警告した。

哀れにも彼はこう呼びかければ、マスク氏がAfDに失望すると信じていたようだ。

メルツ氏率いるCDUは今はドイツ総選挙に向けた世論調査の支持率でAfDを大きく引き離している。だがG7各国の極右政党やポピュリスト政党が、今やホワイトハウスに友人を得たことは明らかだ。

マスク氏はAfDやリフォームUKのような各政党の宣伝活動だけでなく、おそらく資金面も支援できるだろう。だがマスク氏による支援が裏目に出ることもあるだろう。

フランスの極右、国民連合(RN)のような国家主義を掲げる各党は、強い反米の歴史を持ち、裕福な外国人たちの手先だとみられることを警戒するだろう。

トランプ氏が数々の内政干渉的な動きをしたからといって、彼と思想を共有する人物をG7各国のリーダーにできるとは限らない。それどころか米国の最も親密な同盟国としての歴史を持つ国々の指導者の多くは、米大統領を友人としてではなく、むしろ危険な政敵とみなすようになりかねないのが現実だ。

By Gideon Rachma