2025新春僧侶座談会
菩提寺の建立と今後について
出席者
司会=編集部津市・聖興寺住職
中谷僚徳師
鈴鹿市・蓮明寺住職
林光隆師
松阪市・報恩寺住職
秋山智徳師
日興門流の伝統を伝える
三重教区では松阪市・報恩寺、鈴鹿市・蓮明寺に続いて昨年7月7日、津市に聖興寺が建立された。菩提寺の建立は全国各寺院・法華講が一様に念願するところであり、正信会僧俗はこれまで、全国各地に多数の菩提寺を建立している。しかしながら正信会発足から40余年を経た現在、建立発願中の寺院や、諸般の事情により建立の見通しが立っていない講中などもあり、今後すべての講中で菩提寺を建立できるとは限らない。そこで各ご僧侶方に菩提寺建立を発願されたけえ経緯や苦労話、開基住職の思いなどを話していただき、あわせて建立が叶わない寺院・講中では、どのような形で信心修行し、正信覚醒運動を継続させることがよいのかなどについてご意見や、ご提案をお願いした。
(編集部)
◆はじめに
ーーまず、各寺院で建立された経緯や心構えなどについて、お話し願います。
修徳師=私の場合は兵庫県丹波篠山市・興福寺(中谷道尊住職)の出張所が高知県にありまして、ゆくゆくはそこのご信徒たちのお世話をするものだと思っていましたが、経住寺(古川興道住職)さんにご緑があって、その新菩提寺となる聖興寺の住職に就任することとなりました。高知の檀信徒とは元顕正会に所属していた人々が中心ですが師匠に折伏をされ、やがてご信徒宅を拠点に提供された出張所です。私も小学4年生の頃から毎年40年近くお参りしてきて、今も師匠が毎月お参りしています。そこは菩提寺の建立が難しいかも知れませんが、講頭さんを中心にしっかりとした信心をされている方々です。
智徳師=菩提寺を建立するためには建立基金を募らなければなりませんし、その方法はそれぞれの寺院・講中に一番あった方法で慎重に行うことだと思います。特に正信会寺院の場合は現住職が亡くなったら、それまでいた寺院を現宗門に返さなければなりません。すると、ご信徒によっては「住職が住む建物をなぜ私たちが建てなければならないのか」という人もいて、「それなら寺院返却と一緒に、百分も現宗門へ帰る」というような人も出てきます。
光隆師=その辺は僧侶も信徒も日頃からよ話し合っておくことが大事ですね。私はいつも「お寺はご信徒のものであり、住職はそこに住んで法を説くことが仕事です」と話しています。お寺は住職個人の持ち物ではないのですから。そこをはっきりさせておかないと住職と信徒、お寺と信徒の関係が曖昧で稀薄になりがちです。
◆菩提寺建立の萌芽
―教区の中で最初に菩提寺の建立用地を取得されたのはどこのお寺だったのでしょうか。
光隆師=三重教区で最初に菩提寺建立の土地を購入したのは、経住専さんだったと思います。私の師匠(光徳寺・林律道住職)も菩提寺建立委員会を立ち上げて、基金を募り始めたのは早かったです。それは自分が亡くなったら光徳寺墓地にお墓を持っている人が困るからという理由で、墓地に隣接する土地を早くに購入しておりました。ところが師匠が59歳で急に亡くなりましたから、菩提寺を建立する以前に、寺院を退去した後の道場探しにあわてました。幸い鈴木総代さんが「取り合えず母屋を提供する」と申し出てくれましたので、約2年半ほどの間、布教所として活用させていただきました。そして墓地の隣接地は師匠の存命が条件で計画していましたから、その地にお寺を建てることを断念して新たに土地探しから始めることになりました。講中あげていろいろな候補地に当たり、最終的には愛知県半田市・醒悟院の中潰修啓主管のご協力を得て建立にこぎつ.けました。
―ー昔は檀家さんの家を拠点として布教所を開き、やがてお寺を建てることが普通にありましたが、それは現在でも変わらないですね。
智徳師=お寺を建てるためには、まとまった基金が必要になりますが、その大半を住職が出す場合もあれば、檀信徒が積み立てることもあります。大事なことは、僧侶と檀信徒が協力して建てるという意識であり、積み立てるにしても無理が生じるようでは長続きしません。
修徳師=聖興寺の建立基金積み立ても、1年間に一定額を越えないようにとの約束がなされていたそうです。一度に多額なご供養ができる方も中にはいるでしょうが、旧統一教会の例もあるように、無理をすれば家庭に悪影響が出るためとの理由からです。
◆菩提寺建立にまつわる思い出
光隆師=自分たちの手で菩提寺を建立する、という認識を共有することだと思います。蓮明寺は初め「醒悟院鈴鹿布教所」として出発したのですが、醒悟院では先代住職と信徒が協力して材木の選定をはじめいろいろな作業をしたと聞きました。そのため私のところでも毎月13日のお講の後で草むしりや清掃を始めました。それが「蓮明寺は自分たちのお寺である」との意識を高めることに繋がっていると思います。
智徳師=私の所でも毎月13日のお講終了後、参詣していた役員さんなどが中心となって本堂や書院等の掃除をしています。やはり自分たちの菩提寺をいつも綺麗にするという意識の表れだと思います。
ーー菩提寺を建立するにあたり、開基住職の思いとか教訓などがありましたら、お話し願います。
智徳師=報恩寺は聖輿寺と同様、先代の開基住職(秋山徳道師)が健在中に建立(平成17年4月24日落慶)した寺院で、今年は20周年を迎えます。先代住職は初めから「土地は自分が購入して信徒にご供養するから、本堂は信徒で建てて下さい」と話していました。しかしいざ本堂を建てるとなると、自分はこうしたいと希望を話すのです。それが先代住職は京都の住本寺で育ちましたから、新菩提寺も住本寺と同じような本堂にしたいというのです。そこで信徒も「ご住職がそのように希望するのであれば、それがいいでしょう」と自然にそうなりました。それは醍悟院でも同じじゃないでしょうか。醒悟院の開基住職(善徳寺・中濱広修住職)は幼い頃に福島県三春の法華寺で育ちましたから、法華寺の本堂と同じような形式で醒悟院の本堂を建てています。つまりはた環囁を今に伝え残したい、と思う開基住職の
気持ちとそれに同調した檀信徒の志が、お寺の伝統になってゆくのではないでしょうか。光隆師=蓮明寺は師匠が生前、本格的な寺院様式にはこだわらないが、ご信徒を困らせないためにお寺を建てたいといっていました。私も講中もその思いだけは忘れないように、今後も守り伝えてゆく覚悟です。
修徳師=正信会は日興門流の伝燈、正信覚醒運動の精神を理解して次の世代へ伝え贋けることが一番ですが、各菩提寺なりの思いが建物の形や、慣習となって後々まで伝れるならばそれも大事だと思います。
◆建立を含めて今後のあり方は
ーー正信会僧俗も高齢者が増えております。今後は高齢化がますます進み、菩提寺を建立できる寺院もそう多くは望めないと思いますが、それについてはどのようにお考えでしょうか。
智徳師=菩提寺を建立できるに越したことはありませんが、私は菩提寺建立だけが最終目標・ゴールだとは思いません。信仰する目標はあくまでも個々の成仏ですから。そして新菩提寺は僧俗が協力し自前で造った寺院ですから宗門に返す必要はありませんが、後の維持管理が必要になります。
光隆師=菩提寺が完成すれば、今度は駐車場の整備や納骨堂などが必要になります。それを誰がどのようにして維持管理するのかも大事なことです。
智徳師=建掛の管理というのーは結構大変で、報恩寺でもあちこち手を入れてメンテナンスをしています。そのためには新たに護持基金が必要で、報恩寺では建立した直後から護持基金を始めました。
修徳師=菩提寺を建立できない場合には毎月のお講や、法要などを奉修する道場が必要になります。しかしこれらは信徒宅でも開催できますし、葬儀や法事はセレモニー会館などを利用してはどうかと思います。
智徳師=正信会でも北海道、東北、中国教区などは教区の範囲が広い上、寺院数も少しずつ減ってぃます。寺院と寺院の距離が近ければ、住職の死後は隣の寺院に参詣したり、逆に住職がお参りすることも可能ですが、遠距離で時間がかかるようでは、高齢者には頻繁な参詣は難しいです。
光隆師=住職が亡くなった後で、ご信徒のお世話をできる人が誰もいないようでは困ります。教区内で講中の合併なども視野に入れ、この問題を正信会全体でよくよく考えておかなくては駄目です。まずは各教区内で検討しておく必要があるでしようね。
次世代の僧俗のためには
◆次の世代のために今やるぺきことは
修徳師=住職が健在な内から、信徒で中心となっている人の家など.を拠点に決めておけば、お世話をする僧侶も日時を決めてお参りするなどして、安心ができます。住職が元気なうちはしっかり指導教化するけれど、亡くなった後はどうなるかわからないでは僧俗共に困ります。
智徳師=それとお寺を建立するにしてもしないにしても、現在の信心修行を頑張るだけではなく、現在の頑張りは次世代の僧俗のためという意識を強くもたなくてはいけません。報恩寺も先代があらゆる段取りをつけて、私がやりやすいようにしてくれました。その上で私に代を譲ろうという直前に先代が亡くなりました。私は今、先代が引いてくれたレールの上を大過なく走れています。
修徳師=そうですね、私もこれから頑張りますが、世代が変わる時には今の青年部が次の講頭や世話人として活躍できるように、次の世代の法華講員を育てておくことですね。
智徳師=所帯数も大事ですが実働数です。実質活動できる人をどれだけ育てられるか。そのためには今の青年部を育てるという意識よりも、次世代に活気ある人々をどれだけ育て、残せるかだと思います。開基住職は2代目のために、2代目は3代目のことを考えて、活気ある講中を次世代へ渡すことが住職の役目であり、責任だと思います。
ーー最後に5月の全国法華講大会について何か。
光隆師=中部教区とも話合いながら進めてきましたが、七代目・一龍斎貞鏡仰氏の講談「龍ノ口法難」を聞いていただきたいと思います。
智徳師=今の人たちは講談を聞いたことのない人が大多数じゃないかと思います。この講談で大聖人のご生涯を聞いてみて下さい。
修徳師=昔の「大日蓮」を見ると、昭和27年の宗旨建立七百年(第64世日昇上人)の時に、東京の水道橋にある「能楽堂」と、大阪の「大槻能楽堂」で「たつのくち」 (斎藤香村作詞・喜多実作曲)という演題で新作能が演じられた記録があります。大聖人のご生涯をさまざまな形でお伝えすることもいいと思いますね。
光隆師=事故なく無事に、少しでも今後の信心向上の糧となるような大会にしたいと思っていますので、ぜひご参加願います。